皆様は遺言書と聞いてどんなイメージをお持ちでしょうか…
よく聞くのは
「お金持ちが書くものでしょ?」
「80歳くらいになって死期が迫ってきたら用意した方がいいのかな?」
「作るのに息子たちに話しておかないといけないのかな?」
「なんか縁起がわるいな…」
のようなお話です。
これらは一般の人がよく思う遺言についてのイメージなのですが、全然そんな事はありません。
遺言はもっと誰でも自由に書けるものです。ネガティブなものではなく、むしろご自分の気持ちを家族に残すことのできるポジティブなものなのです。
遺言書とはなにか
遺言書とは
民法で定められた一定の方式に従い、自己の死後に財産の処分をどのように行うのかを定めた書面のことを言い、満15歳以上であればだれでも単独で行うことができます。
この中で大事な点は3点あります。
遺言は一定の方式に沿った形式で作成しないといけない。
遺言は死後の財産の処分を定めたものである。
15歳以上なら単独で行うことができる。
これは言い換えれば、
一定の方式に沿わなかった場合は効果がない。
死後の財産の処分以外の事項は効果がない。
高齢者だけでなく若者も遺言は作成できる。
と言えます。
遺言の種類
遺言書は一定の方式に沿って作成されなければ効果がありません。
では一定の方式とはどのような方式なのでしょうか。それをお話しするには遺言書の種類もお話ししないといけません。
遺言書には3種類の方法があります。自筆証書遺言。公正証書遺言。秘密証書遺言です。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は3種類の方法の中でもっとも簡単かつ費用がかからない方法です。
遺言書の全文と日付と署名を自筆し、押印をします。書き終えたらご自身の責任であとは保管しておくだけ。実は一定の要件とはこれだけなのです。費用も一切かかりませんし、用紙も指定されていません。ボールペンや万年筆でなく鉛筆でも大丈夫です(もちろん消えてしまうリスクが非常に高いのでお勧めはしません)
極端な話、その辺のメモ帳に
「私の全財産は妻のBに相続させる。令和〇年〇月〇日 山田A太」
と書けば遺言として効力を持つことになります。
ただし自筆証書遺言は間違いなく本人が書いたもの。という証明が難しいという欠点もあります。その為遺言者がお亡くなりになった後、家庭裁判所の検認手続が必要になりますし、無理やり書かされたのではないか。と相続人の中で疑義が出る可能性もあります。
自筆証書遺言を書くときにはそのあたりの対策が必要です。
(令和2年7月10日から自筆証書遺言の保管サービスが法務省で始りました。この制度を使うと検認手続きが不要になります)
公正証書遺言
公正証書遺言は最も確実に遺言者の意思を残せる方法として多くの人が利用しております。
公正証書遺言の特徴としては、
まず第一に公証役場にて、公証人が作成するという点です。
公証人という法律のプロが遺言者の意思を聞き、それを文章にします。プロが作成する文章になりますので文章の間違いなどで無効となることがまずありえません。
次に証人が二人必要という点です。
公正証書遺言はその書かれている内容が遺言者の意思と合致しているかどうかの確認として承認二人が必要とされています。証人は公正証書遺言に署名を行い遺言が間違いのないものだという事を証明します。
また、公正証書遺言は公証人に支払う手数料が発生します。
公証人に支払う手数料は遺言の目的とする財産の総額によって変わります。
以下の表は日本公証人連合会HPから一部抜粋した公証人手数料の金額です。
目的の価格 | 手数料 |
1,000万円超え~3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円超え~5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円超え~1億円以下 | 43,000円 |
1億円超え~3億円以下 | 43,000円+超過額5,000万円ごとに13,000円を加算した額 |
3億円超え~10億円以下 | 95,000円+超過額5,000万円ごとに11,000円を加算した額 |
10億円超 | 249,000円+超過額5,000蔓延ごとに8,000円を加算した額 |
秘密証書遺言
秘密証書遺言は今ではあまり使われなくなってきたのですが、自筆証書遺言の様に自分で作成し、保管は公正証書遺言の様に公証役場に保管する上記の2つの方法の両方を合わせた性質を持っています。
遺言自体は遺言者本人が作成するので遺言者しか内容を知る事はできず、公証人や証人は「遺言者が遺言を残した」という事実しかわかりません。ですから内容に不備があった場合は無効となってしまう可能性があり、証人を用意するなど作成に手間がかかる割に危ない方法であるともいえます。
秘密証書遺言は手書きでなくパソコンで作成してもかまいません。
また日付が書いてなくても有効となります。
気を付けていただきたい点は①遺言書に署名、押印をする。②遺言書を封筒に入れ、封をし、遺言書に押したのと同じ印鑑で封印する。という点です。
印鑑が別々のものだったりした場合、無効となる場合があります。
財産の処分とは?
遺言は死後の財産の処分を定めたものです。この財産の処分と認められないものはたとえ記載があったとしても効力は発生しません。
では財産の処分とはどのようなものがあるのでしょうか。
財産と聞くと現金や不動産、株式などを想像すると思います。たしかにこれらは財産です。ただ遺言の際に考える財産にはこのようなプラスの財産(積極財産といいます)だけではなく、マイナスの財産(消極財産)も考える必要があります。
マイナスの財産(消極財産)にはたとえば借金、住宅ローン、連帯保証人債務などがあたります。
このプラスの財産とマイナスの財産が相続の対象となります。
言い換えればこれ以外にこのような事を書いても効果は発生しません。
死後、葬儀は〇〇教〇〇宗派の方法で執り行ってほしい 葬儀には〇〇、××、etc…を呼んでほしい 墓は〇〇寺に建ててほしい 遺骨を海に撒いてほしい
一般にこのような事項は死後事務といいます。自分の死後に行われる事務手続です。これらは遺言書に記載しても効果がないので、別途死後事務委任などでお願いしておく必要があります。
15歳以上なら単独で行う事が可能
遺言は民法961条で【十五歳に達した者は、遺言をすることができる。】と定められています。
ですから15歳を迎えたものは自由に単独で遺言を遺すことができます。
しかしこの点一つだけ注意が必要で、実は民法963条にこのような記述もあるのです。
【遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない】
これはどのような事かというと遺言をするにあたっては遺言を遺せるだけの意思能力が必要だという事です。意思能力とは簡単に言えば【自分が何をしているかわかる能力】です。
だいたい幼稚園年長~小学校1、2年生で備わるといわれています。
勘の良い方はわかったかもしれませんが、遺言を遺す方は高齢の方が多いです。
心配なのは…認知症です。
認知症と診断を受けたから絶対に遺言を遺せないわけではありませんが、総合的に見て判断能力がない。と認められてしまえば遺言を遺すことはできなくなります。
ですので遺言書を作成したいと考える場合は、認知症になってしまうリスクを考えながら、判断能力がはっきりしているうちに作成を検討しなければなりません。
まとめ
①遺言には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がある。
②積極財産と消極財産が遺言書の対象。死後事務は対象外。
③遺言は意思能力が必要で、認知症になると作成が困難となる。
特に③に関しては認知症と診断されると遺言作成が困難となりますので、早め早めに対策を行う事が肝心です。
遺言書についてご不明な点があればぜひ一度お問合せください。
みしま行政書士事務所ではお客様に寄り添い、真摯に業務にあたらせていただいております。あなたのお悩みをどんな小さなことでもかまいませんのでお聞かせください。